Victoria regia
和名 オオオニバス(大鬼蓮)オオオニバス(大鬼蓮、Victoria amazonica)は、スイレン科の水生植物である。非常に大きな浮葉を水面に展開することで知られる。
直径3m以上になる大きな丸い葉をもち、水面にその葉を浮かべている。属名の Victoria は、イギリスのビクトリア女王にちなんで命名された[1]。
アマゾン川原産。花は夕方から咲き始め、はじめは白色であるが、翌朝にはピンク色に変化している。花の直径は約40cmで、送粉者となっているのは主に甲虫である。
オオオニバスは、1832年にアマゾン川の上流で、ドイツの植物学者、エドゥアルト・フリードリヒ・ペーピッヒによって発見された。1800年代にイギリスに持ち込まれ、デヴォンシャー公やノーサンバーランド公爵といったヴィクトリア朝の園芸家がこぞって栽培し、大輪の花を最初に開花させることを競い合っていた。1837年には種子が船旅の途中で枯死するなどといったこともあったが、1847年にキューガーデンに種子が届き、発芽、生育に成功した。そして、その苗を譲り受けた造園家のジョセフ・パクストン (デヴォンシャー公に仕えていた) が、1849年に開花に成功させた[2]。
オオオニバスはその目立つ外見から、人々の関心を集めてきた。例えばウォルター・フィッチとウィリアム・ジャクソン・フッカーは、キューガーデンで栽培された個体の標本を元に、1851年に『Victoria Regia』(オオオニバスの当時の学名)というイラスト主体の書籍を刊行し、「正確で、そして美しい」[3]と賞賛された。
オオオニバスが属するオオオニバス属は、通常スイレン科に分類されるが、近縁なオニバスと共にオニバス科として分類されることもある[4]。オオオニバス属には、本種の他にはパラグアイオオオニバス (V. cruziana) のみが記載されている。
オオオニバスは、1837年にジョン・リンドレーによって Victoria regia として学術的に記載された[5]。しかし1832年にエドゥアルト・フリードリヒ・ペッピックにより Euryale amazonica として先に記載されていた植物[6]と同種であるとされ、1850年にジェームズ・ド・カール・ソワービーにより、学名の規約(先取権)に従って Victoria amazonica に改められた(属は変更された)。しかしリンドレーはこれを認めておらず、この学名が定着したのは20世紀に入ってからであった[7]。
浮葉は円形で、全長2-3m、縁が10-15cmほど反り返って、盆形になっている[8]。しかに葉の縁に切れ込みがあるため、葉に水はたまらないようになっている。花は直径20-40cm、夕方頃から白い花弁を展開させて芳香を発し、夜のうちにコガネムシなどの送粉者が訪れる。そして翌朝になると一度花弁を閉じ、花の中に送粉者を閉じ込める[8]。そのように閉じ込めている間に雄しべが開いて、花の中で動きまわる送粉者に花粉が付着する。その次の朝に再び開花して、送粉者は外に放たれ、別の花に飛び移って受粉する。その間に白色であった花の色はピンク色に変化し、芳香も少なくなるため、他の甲虫類があまり寄り付かなくなる[9]。このような機構によって自家受粉を防いでいるものと考えられている。
果実は楕円形で、全体に刺が生えている。その中に大きさ1cmほどの黒色の種子が詰まっており、熟したあとに水中に落下する。種子は1-3ヶ月後に発芽することもあるが、環境条件が悪ければ2-3年の間休眠することもある[2]。
観賞用として、植物園などで栽培される。大型になったオオオニバスの葉は浮力が強く、子供を葉の上に乗せるといったイベントが開かれることもある[10]。なお植物園で栽培される場合、本種とパラグアイオオオニバスとの交雑種が用いられることもあるとされる[10]。
葉に乗るアオサギ