スミレ(菫)は、スミレ科スミレ属の植物の総称であるが、狭義には、Viola mandshurica という種の和名である。
ここでは種としてのスミレを記す。なお、類似種や近縁種も多く、一般にはそれらを区別せずにスミレと総称していることが多い。それらについても下記を参照されたい。
種名としてのスミレ(Viola mandshurica)は、道ばたで春に花を咲かせる野草である。深い紫(菫色)の花を咲かせる。
地下茎は太くて短く、多数の葉を根出状に出す。葉は根際から出て、少し長めの葉柄があって、少しやじり形っぽい先の丸い葉をつける。
花は独特の形で、ラッパのような形の花を横向きかやや斜め下向きにつける。5枚の花びらは大きさが同じでなく、下側の1枚が大きいので、花の形は左右対称になる。ラッパの管に当たるのは大きい花弁の奥が隆起したもので距(きょ)という。花茎は根際から出て、やや立ち上がり、てっぺんで下を向いて花のラッパの管の中程に上側から着く。
平地に普通で、山間部の道ばたから都会まで、都会ではコンクリートのひび割れ等からも顔を出す。
山菜としても利用されている。葉は天ぷらにしたり、茹でておひたしや和え物になり、花の部分は酢の物や吸い物の椀ダネにする。ただし他のスミレ科植物、例えばパンジーやニオイスミレなど有毒なものがあるため注意が必要である。
北海道から屋久島までの日本列島に広く見られる。国外では朝鮮、中国からウスリーに及ぶ。
「スミレ」の名はその花の形状が墨入れ(墨壺)を思わせることによる、という説を牧野富太郎が唱え、牧野の著名さもあって広く一般に流布しているが、定説とは言えない。
学名の種小名 mandshurica は「満州の」という意味である。和名である「スミレ」は、このままだと属名や科名、さらには目名と紛らわしいので、スミレ愛好家は特に本種を指す場合、この名に由来するマンジュリカで呼ぶことがある。
種内の変種としては、以下のようなものがある。
スミレ属には種類が多い。日本産でスミレに似た姿の種としては以下のようなものがある。いずれも茎は地表にあって太くてごく短く、葉は根出状。また、人里周辺に顔を出すものも多い。
姿が似ていて白い花をつけるものに次のような種がある。
上記種は形態的にスミレに近いものであるが、むしろ、同じスミレ属のタチツボスミレ Viola grypoceras var. grypoceras が普通種で、スミレとも混在するため、これがスミレと認識されている場合が多い。こちらの方は、茎が立ち上がるために知っていれば区別は簡単である。ただしこちらにも類似種が多いので、種の同定はやはり簡単ではない。
外来種は、パンジーやビオラと呼ばれる園芸種が多い。種としてのスミレは東アジアにしか分布しないから、外国文学に出てくるスミレは別の種を指す。ヨーロッパではニオイスミレも普通に馴染まれている。